難関校への合格者を多数輩出する塾長が語る。子どものために、未来を見据えた中学受験にするためには(2ページ目)

人として本質的な力を身につけることこそ合格への王道

とはいうものの、「合格できなければ意味がない」と思われる方もいらっしゃることでしょう。それは当然です。しかし、著者が本書で「中学受験の意義を理解しよう」「合格の先を見据えた学びを身につけよう」と何度も述べているのには理由があります。

ひとつは、子どもの人生は「合格」から先が本番だということです。第一志望合格はそのときの「目標」であって、人生の「目的」ではありません。中学受験のあとも学びはずっと続くのですから、「学びの土台」をしっかりさせねばならないのです。

もうひとつ大きな理由は、現在の中学受験は、受験テクニックだけではなかなか合格するのが難しくなっていることです。学習塾は生徒の合格が目標ですから、ほとんどの学習塾では入試問題を研究してその対策を練っています。多くの場合、繰り返し学習で突破できるよう、試験問題をパターン化して、それを繰り返し学習して受験に臨むわけです。

しかし、それは学校側でも先刻承知のこと。当然、塾の対策に対して対応します。著者は次のように記しています。

「入試問題を作る中学校の先生方はそういう対策に長けただけの子どもを求めていないので、塾の傾向分析と対策を超えた学力を問いたい、でも多くの塾はパターン学習で対応しようとする。そのいたちごっこをしてきたのが中学受験界の実情です」

そのため、名門校や難関校と言われる中学では、パターン学習では対応できないよう、「努力量を量る問題だけでなく、その場で自分の力で解き方を考える、本質的な力を問う出題をするようになっている」というのです。

コミュニケーション力や語彙力、好奇心、主体性、行動力、粘り強さなどをベースにした知識や経験、日々の「学び」がないと、難関校の合格をかちとることは、難しくなっているんですね。人間としての、より本質的な力が試されるようになっているのです。第一志望校の合格、特に名門校や難関校の合格を目指すには、近道はないんですね。

「過保護と放任」の問題、子どもの好奇心の芽を摘み取る親の態度など、本書には、親御さんにとって耳に痛いアドバイスもありますが、子どもとの接し方を考え直す上で、とても良いヒントになるはずです。これから中学受験を考えている親御さんはもちろん、小さなお子さんをお持ちの方すべてに読んでいただきたいと感じました。

『未来につなぐ中学受験』

黒田耕平著 クロスメディア・パブリッシング刊 1,380円+税
未来につなぐ中学受験

「中学受験」は子どもたちにとって初めて経験する大きな壁。自分自身で壁を乗り越える力を身につけた子どもたちが「人として大きく成長すること」を追求する希学園の学園長が解き明かす教育の神髄。スーパーエリート塾が大切にしている合格の先を見据えた教育から見える、「中学受験の意義」とは。灘中学をはじめとする最難関中学校への合格実績を多数持つスーパーエリート塾が子どもたちに教えている「生きる力」「やり抜く力」を身につける教育のコツを公開し、ご家庭で実践するときのヒントを満載した一冊です。

黒田耕平(くろだ・こうへい) さん
1975年、兵庫県伊丹市生まれ。大阪大学在学中より塾講師業に携わり、算数科講師として灘中をはじめとした最難関中学校へ多数の合格者を輩出。2009年より希学園学園長に就任したあとも、経営トップと二足のわらじをはきつつ、低学年から灘中受験を目指す6年生まで幅広く授業を担当し、自ら生徒指導の第一線に立ち続けながら、塾生に一生懸命にやりきることの大切さとその先にある合格・成長の喜びを伝え続けている。