個性?管理?奥深い学校制服の歴史と実情から見える日本社会の今

コロナ禍で東京に緊急事態宣言が出て外出を控えている中、興味深い本を読みました。『学校制服とは何か その歴史と思想』(小林哲夫著、朝日新書)です。制服の歴史をひもとき、生徒、学校、制服メーカーなどへの取材やさまざまな資料を駆使して「制服のあり方」を社会思想の観点から考察しています。制服に関する最新事情も掲載されており、「へぇ」「そうだったんだ」と驚かされることが多い本でした。

制服は時代を映す鏡

制服は時代を映す鏡

とかくファッション性に注目が集まる学校制服。学校選びで「制服を気にする」「どちらかと言えば気にする」という受験生も多いでしょう。

しかし、今に至るまでには、制服も社会状況の変化をまともに受けてきました。かつては同じ学校の生徒としての一体感を保つ、あるいは経済的な理由などから、詰め襟、セーラー服が一般的でしたが、高校の制服自由化運動とその反動であるかのような制服復活、タータンチェックのスカートの登場など、この半世紀の間に制服のデザインや制服をとりまく状況は劇的に変化しました。その間にはツッパリブームもあり、丈の長いスカートや学生服(長ラン)などで制服が若者の反抗のシンボルのように扱われていた時期もありました。単なる通学服に過ぎない制服は、実は時代を映す鏡だったのです。

そうした制服の歴史を振り返るとともに、政治や経済、社会思想などさまざまな観点から「学校制服」に内在する文化や制服のあり方にアプローチしたのが本書です。目次を紹介します。

第1章:制服モデルチェンジの論理
第2章:制服誕生の舞台裏
第3章:制服自由、伝統校の矜持
第4章:制服復活で学校リニューアル
第5章:制服を作る側の戦略
第6章:制服の思想

学校史や学校のWEBサイト、各種メディアに掲載された情報を参照しているほか、制服をモデルチェンジした学校や自由化した学校、復活した学校、そして生徒たちへも取材。制服をモデルチェンジした学校や私服OKにした学校、自由化からふたたび制服に戻した学校など、制服に関係する当事者の生の声を聞き、時代状況に応じて制服がどのように扱われてきたのかを解き明かします。

イラストや画像は使われておらず、政治や経済との関わり、制服生地の素材改良などの視点を交えた構成で「かため」の内容ではありますが、丹念な取材をベースに制服の歴史が解き明かされているだけに、資料集としても秀逸。「制服については気にしていない」という人でも、興味深く読める内容となっています。