ポストコロナ期をどう生きる? 未来を担う子どもたちへ知的刺激に満ちあふれるメッセージ集(3ページ目)

知性を鍛錬することは答えを出すことではない

続いて50代〜70代のメッセージをご紹介しましょう。

私たちはそう実感できないだけで、本当はコロナ以外にもさまざまなリスクに囲まれていて、常に死と隣り合わせで生きているのです。いや、生きているというより、生かされているのです。だからこそ私たちは、生かされている一瞬一瞬を、悔いのないよう、かけがえのないものとして、精一杯生きねばならないのではないでしょうか。
(50代 映画作家 想田和弘氏 「コロナ禍と人間」より)

ともすれば、一般の人たちは国や地方自治体の責任を問い、病院や医師まかせになりがちです。しかし、パンデミックの時に重要なのは、社会の構成員である我々ひとりひとりがどう考えてどう行動するかです。これは大人だけではなくて、子どももそうです。その結果が、パンデミックを抑え込めるかどうかを大きく左右するのですから。
(60代 病理学 仲野徹氏「人生100年時代、ポストコロナはダブルメジャーで」より )

COVID-19(新型コロナウイルスのこと)に関して、ニュースやネットや雑誌では、さまざまな専門家の意見が交錯しています。専門家の意見もけっこうバラバラですよね。つい「結局どうしたらいいのか早く教えてくれ」という気になります。でも、誰かが答えをもっているわけじゃないんです。また知性を鍛錬するとは、答えにたどり着くことでもありません。むしろ、簡単に答えを出すことなく、問題意識を持ち続け、考察を続ける態度こそ大切なのです。
(60代 僧侶・宗教学 釈徹宗氏「ディレンマの知性」より)

若い人に言いたいことは、学校の勉強をすることも大事だけれど、それとは別に自分なりの問題を探してそれについて深く考えることはもっと大事だということだ。世間の常識や学校の方針に無理に逆らうのは、現状では時間のムダだから、なるべくスルーして、それとは全く別のあなた固有の問題を、常に頭の中に飼っておいて、折に触れてそれについて考えるということ。多様性という言葉が叫ばれて久しいが、最も大事な多様性はあなたの頭の中の多様性なのだ。
(70代 生物学者 池田清彦氏 「自分に固有の問題を考えること」より)

いかがでしょうか。寄稿者の文章の”さわり”の部分から、さらに一部を抜粋しただけですが、各識者の専門家の立場から、今伝えておきたいメッセージ、そしてなぜそれを伝えたいのか、その結論に至るまでの考察が詳しく述べられています。

哲学、宗教に関する概念や専門用語もかなりていねいに説明されてはいるものの、中高生では「難しい」と感じる人もいるかもしれません。しかし、そういったお子さまにもぜひ挑戦してほしいと感じます。寄稿者は、年代も人生経験の長さも考え方もさまざまです。最後にご紹介した池田清彦さんが言う「頭の中の多様性」を育むには最適のアンソロジーだと感じました。

『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』

内田樹編 晶文社刊 1,600円+税
ポストコロナ期を生きるきみたちへ

新型コロナ・パンデミックによって世界は大きく変わったと言われています。グローバル資本主義の神話は崩れ、医療や教育などが「商品」として扱ってはならないことがはっきりし、一握りの超富裕層がいる一方で命を賭して人々の生活を支える多くのエッセンシャルワーカーが貧困にあえぐ構図が明らかとなりました。わたしたちはいま、この矛盾に満ちた世界をどうするかの分岐点に立っています。この「歴史的転換点」以後の世界を生きる中高生たちに向けて、5つの世代、20名の識者が伝える「生き延びるための知恵」の数々。知的刺激と希望に満ちたラジカルなメッセージ集です。

著者・編者 内田樹(うちだ・たつる) さん
1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院博士課程中退。凱風館館長。神戸女学院大学文学部名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論。『ためらいの倫理学』(角川書店)、『「おじさん」的思考』『街場の憂国論』(共に晶文社)、『先生はえらい』 (ちくまプリマー新書)、『困難な結婚』(アルテスパブリッシング)、『街場の親子論』(中公新書ラクレ、内田るんとの共著)、『日本習合論』(ミシマ社)、『コモンの再生』(文藝春秋)、編著に『転換期を生きるきみたちへ』『街場の平成論』(共に晶文社)、など著書多数。『私家版・ユダヤ文化論 』(文春新書)で第6回小林秀雄賞、『日本辺境論』(新潮新書)で新書大賞2010受賞。第3回伊丹十三賞受賞。