わが子が「面白い!」を見つけ、将来に生かしていくには? ~ロボット工学の世界的権威者に聞く~【前編】(2ページ目)

新しい知識を生み出し、新しいものを作り出す「工学」の魅力とは?

新しい知識を生み出し、新しいものを作り出す「工学」の魅力とは?

山口先生:廣瀬先生はなぜ機械工学を選択されたのでしょうか?

廣瀬先生:電子工学と機械工学とでずいぶんと迷いました。当時は機械工学のことをよくわかっておらず、本当は深く考えずに進学しました。しかし大学では、「材料力学」や「流体力学」など、さまざまな力学を学び魅力を感じ出しました。

大学院の入試に向けて、それらをまとめて勉強してみると共通の論理があり、「工学とはこういうものか」とわかったこともありました。

さらに、大学院でロボットの研究を始めてからが本当に面白くて。機械工学を選んで、結果よかったと思っています。

山口先生:廣瀬先生は、今までにない動きをするロボットとして「蛇型ロボット」の開発や、福島の原発現場など、「人が立ち入れないところで作業できるロボット」の開発など、実用的なロボットを長年研究してこられました。「実用的」というのは、廣瀬先生の中で大きな意味を持っていますか。

廣瀬先生:工学は人の役に立たなければ意味が有りません。サイエンスは解明していく学問で、解明した知識を使って、人が使えるようなものを作っていこうというのが工学であり、それが工学の面白さです。そして、誰もが知らなかったものを目の前に作って動かせるのが工学の醍醐味です。

現在、原発現場に入ることができるボート型のロボットを開発していますが、ちょうど数日前に、保育園のまえの広場を使わせてもらってプールでの実験をしたことがありました。園児たちが見学に来たので、実験の最後に「みんなも一所懸命勉強して、よいロボットを作れるようになってね」と訓示したら、小さなかわいい女の子から「勉強ってなーに?」と質問され、絶句して答えられなかったことがありました。

そのため保育園児にも分かるように勉強をどう説明するんだろうと、それから数日間いろいろ考えたんですが、ふと宮沢賢治の「雨ニモマケズ」にある「よく見聞きし、分かり、そして忘れず」を思い出し、これこそその回答だと膝を打ちました。

そのように考えると、いわゆる普通の大学までで学ぶのは、「よく見て、聞いて、分かって、忘れないようにする」ということですね。しかし工学とは、さらに学んだ知を組み合わせて、新しい知を「創造する」ことまでを含む学問であると言えます。

山口先生:私が大学院から東工大機械系に進学して感動したのが、廣瀬先生達が取り組んでいらっしゃった大学新入生への教育です。受験勉強が終わったばかりの新入生を創造工房に集めて、座学の学問と同時に手を使って物を作り出す体験をさせていた事です。

工学部では、学問は新しい物事を創造する為の大切な道具だ、と言う意識が学生たちに自然に培われる様に考えられていて、皆が面白がって取り組んでいたのが、とても印象的でした。私自身もあまり勉強が好きではなく、まさか大学院に進むとは考えていなかったのですが、新しい物事を創造する面白さとその為の学問である工学との出会いが人生を変えました。

廣瀬先生が創造することを学生たちに伝えることで大学の教育を変えた様に、私も中高での勉強をもっと面白いものに変えていきたい、と考えています。

edu’s point
対談では、廣瀬先生の研究に関する話も大変盛り上がりました。お二方が嬉々として話される様子に、好奇心が世に新しいものを生み出す原動力にもなっているとも感じました。やはり勉強でも仕事でも、心から面白いと思って取り組むことで、能力が開花されるのではないでしょうか。
後編では、廣瀬先生の興味や好奇心は一体どこから生まれてくるのか、体験やお考えをお聞きしました。その中から、子どもの「面白い!」と思う気持ちを育てていくヒントを探っていきます。