生徒の成長を育む家政学院のSDGs探究学習

東京家政学院中学校・高等学校
東京家政学院中学校・高等学校(以下、家政学院)では中学校の総合学習、高校の探究学習の取り組みとしてSDGsの観点から社会課題の解決に取り組む探究学習(総合学習)を行っています。2023年にはこの実績が評価され、「ESD⼤賞」(主催・NPO法人日本持続発展教育推進フォーラム)にて最高賞の「⽂部科学⼤⾂賞」を受賞しました。同校が進める探究学習とはどのようなものなのでしょうか。

※ESD:Education for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」

仲間とともに考え解決策を導き出す

探究学習はチーム制で活動します。高校1年生の生徒2名に、これまでの活動で印象に残っていることや、現在進めている高校での活動についてうかがいました。

インタビューに回答した生徒の画像
右:Y.H.さん
将来は「誰かの思いを形にできる仕事がしたい」とのこと
左:M.S.さん
将来の夢はスポーツ管理栄養士

印象的だった活動について教えてください。

Y.H.さん 「SDGsクリエイティブ」プロジェクトで実際に街を歩き、「治安の悪化」問題について考えました。難しい問題だったので、プロジェクトメンバーで何度も話し合い、最終的に、タバコのポイ捨てを減らすことが課題解決につながると考え、ゴミが出ない新しいタバコについて考えました。苦労した分、プロジェクトの発表が終わった時は達成感がありました。

M.S.さん 東京・奥多摩の御岳でのリバークリーン活動が一番楽しかったです! リバークリーンは、ボートに乗って河原に落ちているゴミを拾いながら川を下っていきます。
私たちは拾ったゴミを捨てるためのゴミ箱も制作。材料はリサイクルできる木材を利用しました。探究学習がなければリバークリーンについて知ることがなかったと思うので、参加できて良かったと思っています。

SDGsに対しての考え方や意識の変化はありましたか。

Y.H.さん 課題を解決することで、また新たな課題が生まれる可能性があることを学びました。課題に対しての解決策は一つではないと思うので、今後も仲間と協力していきたいと思っています。

M.S.さん 問題の原因からしっかり調べ、若い世代の人も解決できるような解決策を提示した方が理解されやすいと思いました。

家政学院に入ったからこそ知ったSDGs

今進めているプロジェクトを教えてください。

Y.H.さん 私たちの班は懐中電灯の普及について活動をしています。実際に照明を扱う企業に取材をさせていただき、照明の大切さを学ぶことができました。
全て自分たちで考えて計画しているので自由度が高い反面、行き詰まることもありますが、話し合うことでどうすればいいのか方向性が見えてくることにやりがいを感じます。

M.S.さん 衣食住の中で「衣」を中心に調べたいと思い、活動しています。
私のチームは自分たちでブランドを立ち上げ、制服のスカートや2023年から導入されたスラックスにも合うデザインのリボンとネクタイを製作し、いずれ学用品や日用品も作りたいと思っています。

お店でドレスについて調べる生徒の画像
中学3年生のクリエイティブプロジェクトは千代田区の企業と連携して、社会課題を解決するプロジェクトを進行中

SDGsについて学んできた感想をお聞かせください。

Y.H.さん 入学していなければ知らなかったこと、取り組まなかったことに触れる機会が多くとても楽しいです。最近では、テレビや街の広告などでSDGsのロゴマークが書いてあると自然と目がいくようになりました。

M.S.さん 中学生で取り組む活動と高校生で取り組む活動は違うので、毎年とても楽しく取り組むことができています。

今後取り組みたいテーマがあれば教えてください。

Y.H.さん 今まで街についての問題に取り組むことが多かったので、世界全体で起こっている問題について調べ、その解決策を考えたいです。さまざまなところで起こっている問題を身近なものとして考えていきたいと思います。

M.S.さん 中学3年生の時に雇用差別、女性差別、男性差別について調べたことがありましたが、より深く調査し、当時出した解決策よりも良い策を出したいと思っています。

SDGsの理念に通じる家政学

同校では活動の成果を感情や印象といった主観的なものではなく、客観性を高めた評価を行うためAIを導入し、プログラム設計にも役立てています。
探究学習を担当する川邊健司(教育研究係主任)先生におうかがいしました。

川邊先生の画像
川邊先生の担当教科は社会科・地理歴史科

SDGs をテーマにした背景と狙いについて教えてください。

川邊先生 本校は創設者大江スミが体系化した家政学を現代風にアレンジし、生活者の視点を重視した「幸せ学問」として捉え、「自分が幸せになること」、「誰かの幸せを願うこと」を重視したプログラムを実施してきました。これは「誰一人取り残さない」SDGsの理念と通ずるものであり、SDGsの達成、さらにはウェルビーイングの実現に家政学が大きく貢献できる可能性を秘めていることから、SDGsを一貫した探究テーマに設定しました。

貴校の探究学習の特徴を教えてください。

川邊先生 マルチプルインテリジェンス(8つの知能)を学力と捉え、既存の言語的知能や数学・論理的知能だけでなく、対人関係の知能など、多様な学力を伸ばす体験的なプログラムをベースとした探究活動を全学的に実施。学校周辺の店舗や企業、各団体等多くの人材と協働、共創した社会課題解決型の探究活動をベースとしています。プログラムによっては複数学年にまたがるチーム編成を行い、大人との協働も含めた異年齢集団での活動も行います。年度末には全校生徒、協力企業、団体等が一堂に会して学習成果を報告、共有する「Global Presentation Award」を開催し、学びや気づきの成果を積極的に学外に発信しています。

探究活動によって生徒たちに身についた力とは

SDGsの取り入れた探究学習は生徒にどんな影響があったでしょうか。

川邊先生 AIを取り入れたコンピテンシーの計測の結果、主体性や協働性、リーダシップなどのチームに好循環をもたらすために必要不可欠な要素での伸びが顕著です。本校では一貫してチームでの活動を行っているため、さまざまな困難に直面しながらも前に進むGRIT(やりぬく力)の資質を身につけていることがうかがえます。

今後、先生が取り組んでみたいと思っていることがあれば教えてください。

川邊先生 これまで培ってきた「つながる力」をもとに、より一層社会とのつながり、未来とのつながりを意識したプロジェクトを構築していきたい。これに加えて、SDGs、さらに、その先の枠組みの中で主役を担う若者世代の交流も大切な要素です。企業・団体等との社会連携とともに学校間連携によって、同世代の人たちが協働して学びを深める機会を模索していきたいと考えています。

受験生へのメッセージをお願いします。

川邊先生 本校の学びにはたくさんの出会いがあります。その出会いが自分をよりよい方向に変え、成長することにつながると思います。自分の好きなこと、興味のあることにとことん打ち込んでその世界のエキスパートを目指してみてください。そうすると一緒に楽しんでくれる人、困ったときに助けてくれる人が世代を問わず集まってきます。そんな充足感を本校で味わってみませんか?

編集後記

同校では体育や道徳の授業でも難民問題を考えるプログラムを組むなど、日々の活動が世界とつながっていることを体感できるような授業も行っています。6年間を通して社会問題解決に取り組むことで、自身の成長と将来への選択肢が大きく拡がっているように思いました。