生徒の価値観を変える!聖学院の「タイ研修旅行」

聖学院中学校・高等学校
聖学院中学校・高等学校(以下、聖学院)のグローバル教育の一つである「タイ研修旅行」は、ボランティア活動を取り入れたミッションスクールならではのプログラムです。12月の10日間、高校1年生と高校2年生の合計20名が参加します。旅程には、世界の多様な暮らしや社会の仕組みを体感できる、山岳少数民族の村へのホームステイも含まれています。

「Only One for Others」の精神を体感!本物の学びがあるタイ研修旅行

1987年から続くタイ研修旅行。一般的な海外研修とは一線を画す、聖学院独自のプログラムです。国際教育部のメンバーとして2010年度からタイ研修旅行に携わる、伊藤豊先生(担当教科:国語)にお話をうかがいます。

伊藤豊先生

プロフィール画像

・担当教科:国語科
・タイ研修旅行には国際教育部のメンバーとして加わっている

タイ研修旅行の目的を教えてください。

伊藤先生 海外でのボランティア活動と異文化交流の経験を目的としています。タイの現地で出会う方々は、社会課題の当事者です。特に小さな子どもたちは、生活環境や貧困などの問題を自分だけで解決する力がありません。交流を通して彼らの気持ちや現実の厳しさ、さらに子どもたちを支える大人の活動を深く知ることで、社会課題を当事者目線で考えられるようになってほしいと考えています。

ホイヒンラートナイ村
ホームステイ先は、カレン族の居住地であるホイヒンラートナイ村
ホイヒンラートナイ村にて
村の暮らしを守るために電気は通しておらず、昼も夜もゆったりとした時間が流れます
ホイヒンラートナイ村の畑
村から1時間ほど山道を歩くと「森林保全型農業」を営む村人たちの畑が広がる

ボランティア活動では何を行いますか。

伊藤先生 昨年は、研修旅行前の9月に現地で発生した洪水の復旧作業をしました。百年に一度と言われる洪水によって、村の生活に必要な橋や、聖学院の生徒が代々お世話になった児童養護施設「メーコックファーム」の生徒寮やゲストハウスも被害を受けました。室内に残っている土砂の撤去をはじめ、再建するための手伝いなどを行いました。

ボランティア作業
屋根の高さまで水があふれ、水が引いた後は大量の土砂が建物内に残されました
ボランティア作業
現地の方と連携しながら復旧作業を進めます
ボランティア作業
各生徒が得意分野を活かし、工夫しながら建物の再建を手伝います
村を救った巨木
洪水の鉄砲水や土砂、倒木をせき止め、ホイヒンラートナイ村を救った巨木

ボランティア活動はミッションスクールならではですね。

伊藤先生 現地でのボランティア活動は、本校の教育理念「Only One for Others」に結び付きます。他者のために自分を活かした経験は、高校卒業後の進路選択の指針になります。また、異邦人を受け入れるというキリスト教精神に基づき、タイで外国人として受け入れてもらった経験から、日本で海外の方を受け入れともに生きる姿勢を身に付けてほしいという思いもあります。

事前学習について教えてください。

伊藤先生 現地での体験や気づきを深めるために、現地の歴史や環境、産業、山岳少数民族が置かれている状況などを学びます。意識していることは、タイという国や現地の方に対する先入観を払拭することです。異文化交流の心構えとして、日本とタイの文化をどちらも尊重し、複眼的視点を保つことが大切だと伝えています。

作成したTシャツ
聖学院の生徒と現地の子どもたちが描いた絵がTシャツのデザインに
Tシャツづくり
事前学習で作ったデザインの判とインクを持参し、子どもたちと一緒にプリントしました
現地の子供たち
Tシャツのプリントが乾くまでの間はサッカーやバスケットボールで親睦を深めます
集合写真
Tシャツづくりは伊藤先生の発案。控えめな生徒も積極的に交流できるようになるきっかけを生み出します

生徒のリアルな体験記

昨年のタイ研修旅行に参加した、高校3年生の飯田董理さんと、高校2年生の伊藤大稀さんにお話をうかがいます。

高校3年生の飯田董理さん(研修旅行当時:高校2年生)

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・在籍クラス:Advanced Class
・聖学院の屋上で養蜂を行い、蜂蜜などの商品開発と販売に取り組む「みつばちプロジェクト」のメンバー
・タイ研修旅行参加のきっかけ:中学受験時の合同説明会で伊藤先生からタイ研修旅行の話を聞き、この研修に参加したいという気持ちが聖学院への入学の決め手になったため

高校2年生の伊藤大稀さん(研修旅行当時:高校1年生)

プロフィール画像

・在籍クラス:Global Innovation Class(GIC)
・タイ研修旅行参加のきっかけ:「このままでは社会で通用しない」という危機感から、海外での経験や知識が自分に必要だと思ったため

現地での交流はいかがでしたか。

飯田さん 現地の方々は、家族のように温かく迎えてくれました。日本語や英語が通じない状況で、どのようにコミュニケーションを取るのか、みんなで試行錯誤しながら過ごしたことが楽しかったです。全力で遊ぶ子どもたちの姿は、日本の子どもたちとあまり変わりません。文化の違いはあっても、同じ地球上で生活する人なのだと感じました。

伊藤さん 子どもたちは言葉が通じなくても、すぐに打ち解けてくれましたが、大人の方はこちらから積極的に話しかける必要があり、コミュニケーションの難しさを感じました。伝えたいことが伝えられず、もどかしい思いもしましたが、現地での日々はとても楽しかったです。

ホイヒンラートナイ村での様子
ジェスチャーで「何を切っているのか」と聞いてみたら、近くにいた豚を指差しながら「家畜の餌の野菜」だと教えてくれました
現地の子供と
僕のお兄さん!と慕われ、最終日には泣きながらハグをしました
現地の子供と
無邪気な子どもたちと日が暮れるまで一緒に走り回り、国や文化の境界線が溶けていきます
皿洗い
スマートフォンを持っている同世代の子は、帰国後もビデオ電話をする仲になりました
ホイヒンラートナイ村ホームステイ先のご家族と
お世話になったホームステイ先のご家族と
カレン族の食事
カレン族の夕ご飯はスクランブルエッグのような卵料理や、豚の耳の皮の揚げ物などが並びます

ボランティア活動では何を感じましたか。

飯田さん 被災地での復旧作業をはじめて経験して、復旧の大変さや被災者の心の痛みを知り、世界のニュースを「遠くの国の出来事」ではなく「自分事」に感じるようになりました。

伊藤さん 部屋の中に積もった土砂は想像よりも固まっていて重たく、撤去作業はとても大変でした。洪水の被害状況は事前学習で知りましたが、実際に現地で見ると感覚が全く異なり、衝撃を受けました。

価値観の変化と未来への展望

タイ研修旅行を通して考え方や価値観に変化はありましたか。

飯田さん タイ研修旅行に参加する前は、知らない物事に対する関心がなく、いつも遠ざけていました。しかしタイで多様な文化と考え方に触れて、知らないことを見聞きすることの楽しさを知り、今ではさまざまなことに挑戦してみたいと思えるようになりました。
また、昔から人と話すことや子どもと触れ合うことが好きで、タイ研修旅行を経てその気持ちがより強くなり、自分の将来像を具体的にイメージできるようになりました。

伊藤さん 今までは、幸せはモノやお金に頼って手に入れるものだと考えていました。しかし、洪水によって生活がままならない状況でも、幸せそうな笑顔を見せる子どもたちと触れ合うなかで「幸せとはなんだろう」と考え、原点に返ることの意義に気づきました。彼らには、常に助け合える仲間が近くにいます。それが、モノやお金だけでは手に入らない幸せだと気づいた瞬間、自分の心の中で何かが大きく動いたのです。孤独を感じるときも、自分の近くには仲間がいるはずだと感じられる力を持つことで、本当の幸せを手に入れられるのではないかと思うようになりました。同時に、何事に対しても先入観を持たず、まずは現地で体験することを大切にしようという考えも芽生えました。

「アブアリ財団」を訪問
無国籍の子どもたちの国籍取得や就職を支援しながら、生徒寮を運営する「アブアリ財団」を訪問
「アブアリ財団」の寮生と
アブアリの寮生と仲良く昼ご飯
「みつばちプロジェクト」のメンバーが活動を紹介
「みつばちプロジェクト」のメンバーが活動を紹介。年に2回、保護者や教職員に向けてタイ産コーヒーを販売し、その利益をアブアリの学生たちへの支援に充てています
タイ研修旅行集合写真
現地で山岳民とともにコーヒーの有機栽培にチャレンジする中野穂積さんと。ホイヒンラートナイ村へのホームステイにもご協力いただきました

将来の夢や目標を教えてください。

飯田さん 将来の夢は歯医者になることです。タイ研修旅行を経て、海外の歯科医療が発展していない地域で、歯科医療を提供することも視野に入るようになりました。

伊藤さん タイ研修旅行で、現地は災害の復興資金が不足することが多いという問題を知りました。そこで、海外に現地の状況を発信して復興資金を獲得するための支援を、GICのプロジェクトとして計画中です。ゼミの中に興味を持ってくれる生徒もいるので、人を巻き込みながら進めていきます。

GICの全体像や特色あるカリキュラムに関する過去記事をチェック▶原体験で視野も未来も広がる!GICが育む次世代の挑戦者たち

受験生とご家庭へのメッセージをお願いします。

伊藤先生 タイ研修旅行で現地の子どもたちと過ごすことで、生徒が持つ心の優しさが表に出てきます。日本だと恥ずかしくて出せないような本来の自分をさらけ出すことで、現地の方も心を開いてくれて、言葉が通じない環境でも仲良くなれる。この貴重な日々を、ぜひ体験してほしいです。

飯田さん タイ研修旅行は、現地にいるだけで自分の心が自然に開き、物事の見方が変わる良いきっかけになると思います。聖学院は、自分の中にある興味関心を引き出せるようなイベントがあり、やりたいことを尊重してくれる先生ばかりで、のびのびと学べます。先生と生徒の距離が近く相談しやすい環境で、本当の自分を引き出せる学校なので、ぜひ入学してください。

伊藤さん 聖学院は、社会に出る前の障壁を壊してくれて、人として成長させてくれます。卒業後も学校に愛着を持ってくれる先輩方が多く、教員として戻ってきたり、記念祭や研修旅行の手伝いに来てくれることもあります。生徒一人ひとりの個性を尊重する良い学校です。サポートも手厚いので、安心して入学してください。

編集後記

安心して自己開示ができる環境で、多くの学びと成長を得られるタイ研修旅行。帰国後の事後学習では、伊藤先生の指導のもと、各生徒が現地で感じたことなどをエッセイや紀行文としてまとめます。記念祭では、飯田さんと伊藤さんのエッセイ・紀行文を含む本が販売される予定なので、ぜひご覧ください。二人の豊かな表現力や、本記事では紹介しきれなかったタイ研修旅行の体験をリアルに感じられる作品集です。

イベント情報

イベント名 日時
校内見学会(来校型) 10月11日(土)、11月8日(土)
帰国生対象入試説明会(オンライン) 10月18日(土)
学校説明会・体験会(来校型) 10月25日(土)
高校受験対象学校説明会(オンライン) 10月25日(土)
創立119周年記念祭(文化祭) 11月1日(土)・3日(月)
学校説明会/イブニング開催(オンライン) 11月12日(水)
入試対策説明会(来校型) 11月29日(土)、12月20日(土)