校内コンビニを救え!昭和学院オリジナルの探究学習レポート

昭和学院中学校・高等学校
私立校ならではの柔軟なカリキュラムや目標に合わせたコース制など、中高6年間の充実した教育が高く評価されてきた昭和学院中学校・高等学校(以下、昭和学院)は、「自ら考え、自ら学び、自ら行動できる」生徒像を掲げてきました。そして今、主体的に学ぶ姿勢が求められる時代にふさわしい探究学習プログラムが始動しています。

校内コンビニとのコラボレーションプロジェクト

昭和学院オリジナルの探究学習は、高校1年のIA・SAコースを除く全クラスが興味・関心を持っている事柄に関係するキーワードを選び、さらにそこから1つのテーマを深く掘り下げていくという内容です。今回の取材では、生徒たちにとって身近な施設であり、息抜きの場でもある校内コンビニ「Yショップ」が抱える問題を解決するグループに着目しました。

探究学習担当の林先生
林先生(探究学習担当)

昭和学院ではどのような探究学習に取り組んでいますか。

林先生 何が起こるか分からない社会だからこそ、正解のない問題について自分たちで考え、仲間とのグループワークを大切にしながら解決策を見つけ出すといった過程を取り入れています。校内コンビニ以外のテーマを扱うグループもありますが、本日紹介するグループは経済の仕組みや商品開発に関心があって集まった生徒たちです。いつもとは異なるクラスの生徒同士がお互いに刺激を受け、協力しながら問題解決に向けて活動する時間になっています。高校の3年間を同じクラスメイトだけで過ごすよりも、視野が広がる機会として混合クラスでの授業を設定しました。
まずは身近な題材を扱うことにして、みんながよく食べているランチパックの具材に関して考えてみました。本校はスポーツで活躍する生徒が多いのでアスリート向けの栄養素が含まれていたり、美容・ダイエットを意識する年頃なので、そのようなランチパックは作れないだろうか、と高校生の視点から探ってみるというものです。そこから発展して、経営的に限界がある校内コンビニの売り上げと利用者数を増やして活性化を図るという目標を立てています。具体策として、新商品の導入や陳列方法などが挙げられました。

異なるクラスとの合同授業形式
いつもとは異なるメンバーがグループになって問題解決を図ります
全クラスが同時展開するユニークな授業形式
全教室の様子が画面で共有されるユニークな授業形式

探究の授業進行は先生もかなり工夫されているのではないですか。

林先生 他校の事例を調べつつ、昨年実施した先生方からアドバイスを受けて、関係各位に綿密な共有をしてきました。昨年のケースは、単にインターネットで調べものをして終わらせるのではなく、仲間と意見を交わしながら協働し、効果的な発表の仕方を考える段階まで行き着きました。こういった経験の成果は目に見えづらいものですが、総合型選抜のような大学入試で活かされる潜在的な力になっているはずです。
これまで興味がなかった物事にも取り組むのが探究の面白いところで、やっぱり向いていなかったという結果もあり得るわけです。向き不向きを含めた新しい視野を広げて、進路や職業の選択基準につなげてほしいですね。

新しい出会いが新しい視点を生み出す探究授業

今まで接点が無かった4名が集まり、各自の意見を持ち寄って難題に取り組むユニークな授業。そこでの活動内容や昭和学院で学んだことなどをお話しいただきました。

探究学習に挑戦する生徒たち
(右から順に)Y.I.さん、A.S.さん、H.T.さん、C.T.さん
グループメンバーと主体的に関わる生徒たちの様子
グループメンバーの一員として主体的に向き合う姿が印象的です

今回見せていただいた授業の内容を説明してもらえますか。

H.T.さん Yショップを応援するという内容で、なぜ他のコンビニで買い物をしてしまうのかといった原因の仮説を立ててみました。私たちはパンだけでなくお弁当があると嬉しいと考え、みんなで品揃えの改善を提案することに決めました。

Y.I.さん 他のコンビニにはないアットホームな雰囲気や校内にある利便性を打ち出したらどうかという意見が出てきました。そうした提案を売上・不満点と一緒にスライドにまとめて、生徒視点のアイデアや先生視点の心配事など、各々の立場を意識しながら解決策を練っています。

A.S.さん スライドは文章だけになりがちで意見を伝えることが難しいので、写真を多用した広告をイメージした資料にして、見た目でも分かりやすくなる要素をたくさん取り入れました。

C.T.さん 他のグループでも発表方法を工夫しているので、私たちの良さを出すことを心がけました。理論を順序立てて説明しながら、誰かの真似ではなく私たち自身の言葉で伝えることを大事にしました。

以前受けた授業で印象に残っている内容を教えてください。

H.T.さん 中3の探究活動はオンラインで企業訪問インタビューを行いました。アニメ制作会社の方から仕事の内容や事業内容だけでなく、個人的に興味を持っていた話題を聞くことができ、資料としてまとめました。その内容を探究フェスティバルという場で発表した際は、見学しに来た家族から褒めてもらいました。

Y.I.さん コロナ禍の期間はマインクラフトで某有名遊園地の世界を再現していました。始めるまでは難しいと思い込んでいましたが、いざやってみれば詳しくない人でも参加できることを知り、他の分野でも試してみないと面白さが分からないことがたくさんあるんだと実感しました。

A.S.さん 私もマインクラフトで仮説を可視化する授業が印象的でした。数式のように見える形で答えが出てくるものではなく、まわりのみんなに質問することが多かった気がします。他者の気持ちに共感しながら一緒に謎を解く楽しさを覚えました。

C.T.さん 中学では各学年でSDGsをテーマにした発表をしました。みんなの前でプレゼンテーションを繰り返してきたので、人前で意見を伝える難しさと楽しさの両方に気づくことができました。

緊張よりも持ち上がりを見せるグループワーク
探究学習は他グループとの情報交換からヒントを得られることがあります
コンビニで商品を選ぶ生徒たちの写真
現地の状況を観察・分析して実現可能な対策案を練っていきます

みなさんの夢や目標は決まっていますか。

H.T.さん 選択授業で美術を学んでおり、デザイナー職の中でもCGデザインが向いていると思うので、ITに強い学校に進学するイメージを持っています。

Y.I.さん 患者との対話から精神状態を測る臨床心理学に興味を持ち続けてきたので、今度は具体的に学科を選択する段階です。

A.S.さん お世話になった音楽の先生が心理学を専攻していたので、音楽療法士として患者が持つ障害を取り除くような仕事に就きたいと考えています。

C.T.さん 具体的な進路は決まっていませんが、法廷ドラマが好きなので法律関連の仕事か映画関連の仕事のどちらかに就けたら嬉しいです。

今年の高校1年生は、探求学習でどんな成長を見せてきましたか。

林先生 自分の殻を破って一歩前進しようという前向きな姿勢がとても素晴らしいです。そういった姿勢は探究に限らずクラブ活動や日常生活でも大事なことです。自分の限界を決めずに勇気を出して何でも試したからこそ、生徒たちはいろんな発見や気づきを重ねて視野を広げてきました。背景が異なる人の意見を聞いたり、常に思考する必要性を知れた経験が、みんなの大きな糧になっています。

先生の展望を教えてください。

探究で欠かせないキーワードは「社会とつながる」というものです。生徒自らが今後生きていくうえで直面する問題を探究テーマとして設定し、何ができるのかを探っていく内容を検討しています。興味・関心に関連付けて、将来の進路選択にも活かせるようになってほしいです。
経験を積んで自分の知識とやる気で道を切り拓く際、異なるクラス・コースの生徒たちとの協働を通して、多様な視点を育む環境が整備されてきました。大学生や社会人になって、「あのときの経験が役立った」という成功事例につなげていきたいです。

編集後記

探究のグループ活動はクラス・コースが異なるだけでなく、本校に入学した理由も異なる仲間との協働から成り立ちます。同じ目標を達成するために知恵を出し合って参加する学習活動は、社会人・組織人として活躍することになる近い未来のリハーサルにもなっています。